ジェロントロジストを求めて各分野の先駆者に独自の視点でインタビュー

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更新日 2015-08-30 | 作成日 2008-06-12

研究探訪 VOL.3

ジェロントロジストを求め各分野の先駆者に、室長が独自の視点でインタビュー。
第3回目は鍵和田 務さん

カント哲学から椅子の歴史へと進んだ
ユニークな研究人生。
鍵和田 務さん

哲学から美学、そして椅子の民俗学へ

鍵和田先生5.jpg鍵和田先生は、1950年代京都大学在学中に読んだ本の中での「音楽の研究はベートベンの交響曲第五番に始まり、第五番に帰る。哲学の研究はカントに始まり、カントに戻る」という一節に大きな影響を受けたと述べています。同じように、先生の人生においても「木に始まり、木に戻る」という言葉が当てはまります。
先生は、小田原の箱根細工を作る家に生まれました。出自そのものが木と縁が深いのです。その後、千葉大学の前身である東京工業専門学校木材工業科に入学しましたが、木材の学問にはまったく関心がなく、哲学に傾倒しました。
ちなみに東京工業専門学校の卒業制作は、「工芸の哲学的考察」だったそうです。その内容は、「美とは美的感情に基づく快感であるという理論、感情移入説による美的形式と様式の成立の考察、工芸が絵画や彫刻と異なって『美』と『用』の価値から成立している…」ことなどをまとめたもので、おそらく、教官は卒業判定に非常に困ったのではないかと想像されます。
その後、京都大学文学部哲学科に入学し、カント哲学の勉強に明け暮れました。それからカント美学へ。あまりにも観念的な世界に辟易し、実際の美術や工芸の作品に向き合う工芸史の研究へと転換しました。そして、文化人類学と民俗学の手法を土台として家具の研究を始めます。日本では先生だけが提唱した家具の民俗学(フォークロア)です。

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さらに先生は、家具の原点は椅子にあり、「しかも木製のものにある」といいます。「ヨーロッパでは、椅子は権威の象徴であり、庶民の座るものでなかった。庶民の椅子としてはブナ材を使ったウインザー・チェアーがその始まりといえる」というのが先生の判断です。

超高齢社会における椅子の役割は大きい

超高齢社会において、椅子の役割は大きくなっていますが、高齢者用の椅子が少ないのはなぜなのか? 先生もその点を指摘されました。先生の書斎にはたくさんの家具がコレクションされ、その中に、これぞ高齢者のための椅子といえるものが一脚ありました。
それは、長野県松本市にある「椅子屋まいた」の蒔田卓坪氏の製作による鍵和田先生2.jpgもので、木材で作られた曲線を描く椅子です。この椅子の特性は、構造、カーブ、木材、寸法です。構造は強固でがっしりしており、手の部分を握り、全体重を懸けても安定性があります。全体の曲線はウインザー・チェアーのように柔らかな連続的なカーブで構成されています。
木材は日本人が最も好む、親しみのある材料です。手触りの感覚が温度、湿度に関係なく、人間の肌に馴染みます。寸法はとくに大切であり、この椅子の寸法は高齢者の動作にマッチングするサイズになっています。高齢者の起居動作は、他の世代と異なるので、この配慮が一番重要なのです。見た目は、安心感、親しみやすさを与える上で大切ですが、この椅子は、見る人に何かほっとする温かな感じを与えます。

木の文化を未来に繋いでいくために

木の文化フォーラムの活動は、先生のライフワークのひとつです。「家具の基本は椅子であり、材料は木である」という考えの基に、先生が手弁当で始められたフォーラムです。日本の文化の源である「木」を通じて先駆者の財産を守り、次世代に繋げることを趣旨として、多くの人たちが参加しています。
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(写真:谷口とものり

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鍵和田 務
生活文化研究所 所長
財団法人家具の博物館 理事

京都大学文学部哲学科 卒業
日本デザイン学会名誉会員

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